日本公社債研究所は、欧米、特に米国で普及している債券の格付けを日本にも導入することになったのに伴い、一九八五年に設立された格付機関です。
勉強会の趣旨は、債券の格付けという、企業金融そのものと触れ合う仕事をしていながら、日常の忙しさのせいでじっくりと考えることがない企業金融の様々な現象について、週に一度くらいは理論的に話し合ってみようということでした。
いわゆるファイナンス理論の複雑な数式を勉強しようというものではなかったわけです。
従って、そこでの議論をまとめたこの本の狙いも、企業金融の様々な事象の背後にある「ことの本質」を、できるだけ日常の言葉で整理しようというものです。
ですから、もし皆さんが、企業金融という言葉から、ファイナンス理論の数学的な展開を期待されたとしたら、残念ながら期待には応えられません。
現代のファイナンス理論は、オプション価格公式といわれる数式を駆使して、精綴な投資行動論を展開しますが、そうした理論の説明を受けていると、一切の投資は数学的に指図、管理され、高度な数学的知識を備えた専門家が設計したコンピューター・プログラムによって実行されるかのようなイメージが生じてきます。
しかし、オプション価格公式は、例えば、現在の株価やその変動状況から株式オプションの合理的な価格を評価してくれはしますが、なぜ株価が現在の水準にあるのか、どうして変動しているのかを説明してはくれません。
公式が教えてくれるのは、なぜ株価が決まり、どうして変動するのかではなく、それがわかったときの最適の行動は何かということなのです。
オプション価格公式は、確かに私たちの投資行動に合理性の観点から一定の指針を与えてくれますし、こうした公式を取り込んだ投資プログラムのいくつかは、現実に投資家に利益をもたらしていますが、それは、人間に代わってコンピューターが「全て」の投資判断をできるようになるということと同じではありません。
今回の目的は、そうした問題、つまり、なぜ株価が決まり、どうして変動するのかという問題について、できるだけ簡単に、しかし筋の通った説明を試みるところにあります。
ここでは、企業金融とか企業投資というものが、コンピューター・プログラムに代替される単純なテクノロジーではなく、企業活動に対する積極的な理解なくしては成り立たない営みなのだということを理解いただければと考えています。
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